第127話 「脱・下請け」の最適解はこう探す!受託製造の限界を超える3つの視点

「先生、うちの仕事は、24時間稼働しなければ、利益が出ない大変な業界なんです。なんとか、いまの受託製造から脱却していきたく、自社商品づくりに挑戦しようと思うのですが……」
と、ある製造業の経営者から相談を受けました。
静かに語られていましたが、その背景には構造的な行き詰まりと、将来への不安があると感じました。
同じような悩みが、他の経営者からも頻繁に寄せられています。
実は、こうした相談は決して珍しいものではありません。
私たちが日々接する中小の製造業、とくに長年OEMや受託製造に取り組んできた企業の経営者からは、驚くほど共通した声を耳にします。
たとえば──
「自社で価格を決められない」
「このままでは利益が尽きてしまう。」
「設備投資をしても、単価が変わらず回収できない」
「いまのところ雇用はなんとか守れても、未来が見えない」
「自社商品を出したいが、経験も実績もなく不安が大きい」
「長年、信頼関係を築いてきたにもかかわらず、
購買担当の交代により、価格交渉の厳しさが増している」
どれも、真面目に仕事に向き合ってきた会社ほどぶつかる現実です。
これまでと同じ努力では、突破できない構造の壁。静かに、しかし確実に追い詰められていく。そうした葛藤は、決して特別なものではありません。
今、多くの企業が同じ問いに直面しています。
今回の相談者も、まさにその一人でした。
この相談に対して、私たちがまずお伝えしたのは、
「何をつくるか」よりも先に、「どこで戦うか」を決めましょう、
ということでした。
つまり、どの分野でカテゴリーキラー※となれるかを見極めることが先決なのです。
※カテゴリーキラーとは、競合他社を圧倒する差別化された強い商品・サービス・事業のこと
自社商品をつくるべきか、それとも受託事業を磨くべきか。
その選択に悩む経営者は多いのですが、実はその前に「どの土俵で勝負するか」を見極める必要があるのです。
例えば、自社技術を活かして商品をつくったとしても、
それを届けるべき「相手」が明確になっていなければ、どんなに良い商品も売れません。
逆に、「この悩みを持つこの人に、こう解決できる」とはっきり言えるのであれば、商品の形はあとからでも整えられます。
戦略とは、商品開発のことではありません。
戦う市場、勝てる相手、選ばれる理由を描き切る「設計図」のことです。
製造業には、大きく分けて3つの“勝ち筋”があります。
1つ目は、受託事業を尖らせ、“指名される存在”になる道です。
同じ受託であっても、「あの会社にしかできない」「あの会社なら安心だ」と思ってもらえるよう、技術・対応力・見せ方・営業のすべてを設計し直すことで、価格競争を抜け出すことができます。
2つ目は、自社商品を立ち上げ、価格主導権を自社に取り戻す道。
これは、「この悩みを抱える人に、こう解決する」というコンセプト設計とセットでなければ機能しませんが、うまくいけば、受託にはないリピート性・ブランド価値・資産性を育てることができます。
そして3つ目が、自社商品と受託事業を両輪で回し、相乗効果を生む道です。
これは、自社商品のブランド力が受託事業の信用を高めたり、受託で得た知見が商品の磨きこみに活かされたりと、中小企業ならではの強みを活かす最も柔軟なモデルです。
大切なのは、「自社にはどの道が向いているのか」を、構造的に見極めること。
どれが“正解”というわけではなく、会社の強みや状況によって選ぶべき道は異なります。経営者がこの3つの勝ち筋を理解し、「どこで戦うか」の視点を持てるようになると、それまでぼんやりしていた未来が、少しずつ具体的に見えてくるのです。
同じような課題を乗り越えてきた企業の話をいくつかご紹介したいと思います。
迷いや葛藤の中から自分たちなりの戦略を見出し、実行していった「リアルな経営の物語」です。
ひとつ目は、ある金属加工業の事例です。
「先生、うちは特定分野において、長年にわたってお客様の要望に柔軟にこたえてきたのですが、その結果、なんでもできる総花的な会社になってしまいました。事業にトンガリを出すためには、自社商品に挑戦したらどうかと思っていますが、どうでしょうか。」と相談に来られました。
しかし私たちとの議論を通じて、「自社商品を無理につくるのではなく、今やっている受託事業そのものを“尖らせる”道がある」と気づかれました。
自社商品を開発して、販売していくためには、「開発」と「販売」という2つの困難を乗り越えていく覚悟と時間、資金が必要です。
それよりも前に、受託事業の収益をあげていく可能性を追求する方が先ということを理解してもらいました。自社商品の開発は、その後でも遅くありません。
同社は、もともと特定の分野に強みを持っていたのですが、それを戦略的に訴求したことはありませんでした。
業界で「なんでも屋」と思われていた状態から、「この分野のことなら当社へ」と“指名される存在”になるために、受託事業としてのカテゴリーキラー戦略を策定しました。そして、Webサイトや営業資料の刷新、対応スピードの改善などを進めました。
その結果、月間の案件数が約5倍に増加。
「自分たちの技術を、価値として発信していいんだ」という社内の意識改革にもつながりました。受託だけでも、“カテゴリーキラー化”することで戦える。その実例です。
当時、当社のコンサルティングを受けられていた若手の社員さんが、大きく成長され、現在は同プロジェクトのリーダーとして、顧客開拓を推し進めています。同社の強みが最大限に生きる領域で、誇りをもって営業ができるようになったことが大きな成果につながりました。
続いて、ある紙加工業の会社の事例です。
こちらの会社は、厳しい価格競争にさらされる受託事業から脱却していくために、自社商品に挑戦していたものの、全く売れずに悩んでいました。
「先生、唯一地元の小売店と1社だけ取引があるのですが、せっかく商品を店頭に置いてもらったのに、半年経過しても全く売れません。どうしたらよいでしょうか?」と、当社に相談がありました。
話を聞いていくと、商品の中身や技術には十分な魅力があるにもかかわらず、
・ターゲットが曖昧
・使い方が伝わっていない
・販路も合っていない
という、“伝え方や届け方の設計不足”が課題でした。
そこで、この商品をカテゴリーキラーとして立たせていくために、差別化の見直しからはじまり、ネーミングやキャッチコピー、パッケージ、提案書の内容までを全面的に見直しました。
その結果、展示会で大手バイヤーの目にとまり、複数社の取引が一斉にスタート。
そして嬉しい連絡が入りました。
「先生、在庫がどんどん減っていって、すぐに増産をしなければ間に合わないほど、注文がきています!本当にありがとうございました!」
これまで滞留していた在庫はわずか2週間で完売し、うなぎ上りに受注が増えていきました。
そして、今ではその商品が、会社全体の売上の約2割を支える「カテゴリーキラー」になっています。まさに、看板商品です。
経営者は後にこう語ってくださいました。
「誰に何をどう届けるか”を変えるだけで、こんなに違うんですね。戦略を考えるって本当に大切ですね」
今振り返ると、同社は、在庫の山を抱えて苦しい状況から、諦めずに再挑戦された強い「想い」が何より素晴らしかったと思います。
最後にご紹介するのが、ある部材製造業の会社の事例です。
同社は、もともと住宅設設備関連の部材をOEM供給している企業で、受託製造が主力でした。素晴らしい社風をもち、様々なことに前向きに挑戦されている会社です。
ただ、このままの延長では、会社として差別化できない、という危機感を持っていたところで、当社のカテゴリーキラー戦略の本を読まれました。その後、当社と一緒に自社商品の開発をテーマに、カテゴリーキラーづくりにチャレンジすることになりました。
このプロジェクトでは、「お客様に指名買いされるメーカーになろう!」というビジョンを設定してスタートしたのですが、これは社長のみならず、コンサルティングに参加された皆様の強い想いを言葉にしたものでした。
開発したのは、住宅に設置される機器の機能性と美しさを両立させた製品。
これまでに無い発想と、美しいデザインで、デザイン界においても各方面から賞を受注する素晴らしい製品として完成しました。
その後、展示会への出展を通じて市場に打って出たのですが、1年間でいくつかの展示会に出展するも、うまく成果が出ませんでした。
そこで、当社と一緒に、展示会での見せ方を大きく変えて再挑戦することにしました。体験できるブース設計、導入事例の紹介パネルなどを用意し、製品の“スペック”ではなく“使う未来”を伝える展示へと進化させたのです。
営業トークも綿密に設計して、展示会出展前にかなり練習しました。
その結果、展示会で100件以上の商談を獲得。
しかも、その商品開発力、ブランド力が評価され、既存の受託事業にも「この会社は信頼できる」と声がかかるようになったのです。
同社の成功事例は、商品開発だけでなく、その後の売り方も、粘り強く追求していく姿勢が大切ということを示しています。
特に製造業は展示会を活用されている会社が多いですが、ブースの設計などを、ほぼ丸投げで外注して、あとは、当日立って待っているだけという会社がほとんどです。似たような会社が一斉に集まる展示会で、このような姿勢で出展を繰り返していても、なかなか目的としている企業との出会いは生まれません。
「新商品の開発」×「新販路の構築」は、簡単ではありませんが、同社は、現在も次のステージに向けて、当社と一緒に前向きに取り組まれています。
これら3つの事例には、それぞれ違う“勝ち筋”があります。
ですが共通しているのは、「構造を変える」という決断を経営者が下し、行動に移したこと。そして、どの事例にも、“はじめの不安”があり、“次の一歩”があったこと
です。
当社にご相談に来られる経営者の多くは、「このままでいいのか」という迷いや焦りを抱えています。
自社の技術には誇りがある。けれど、その価値が伝わらず、価格だけで選ばれてしまう日々に、行き場のない悔しさを感じているのです。
そうした悩みに向き合い、私たちは「どこで勝つか」という構造の視点の転換を共有してきました。その結果、経営者自身の視点が変わり、社内にも少しずつ前向きな空気が生まれていきます。
「どうせムリ」から「やってみようか」へ。
会社全体が、じわじわと変わり始める。
私たちは、そんな変化の瞬間をいくつもの現場で見届けてきました。
では、どうすればこの構造から抜け出せるのか。
答えは、必ずしも「自社商品を持つこと」ではありません。
重要なのは、「自社がどこで戦うべきか」を見極め、その土俵で勝つための設計図を描くことです。
そのために、まず必要なのは次の3つの問いに向き合うことです。
☑誰に向けて提供するのか(ターゲット)
「今までは受け身で仕事を受けてきたけれど、これからは“この相手にこそ価値が伝わる”という明確な対象を定める」
☑何を提供するのか(提供価値)
「単なる技術力ではなく、“相手の困りごとをどう解決できるか”という視点で、自社の価値を再定義する」
☑どう届けるのか(伝達と接点)
「選ばれる理由を明確に伝える販促物、Web、展示会、営業トーク。全体の“見せ方”を一貫させる」
この3つの問いに答えられるようになった企業は、必ず変わります。
それが、「戦略がある状態」です。
そして、その戦略に基づいて、次のいずれかの道を選びます。
- 受託事業を尖らせて、他社と明確に差別化する
- 自社商品を立ち上げて、新たな収益モデルを育てる
- 自社商品と受託の相乗効果を狙い、ブランド全体を高めていく
どれも簡単な道ではありません。
ですが、道筋が見えれば、社内の意思決定は変わります。
社員の目標も揃い、外部への発信にも一貫性が出てくる。
「なんとなくやっていたこと」が、「選ばれるための行動」に変わる。
これこそが、“設計図がある経営”の力です。
中小企業こそ、この「戦略地図」を持つべきです。
資源が限られているからこそ、“どこで勝つか”の選定が命運を分けるのです。
「このままでいいのか」。
もし、そう思ったことがあるなら、すでにその瞬間から、変化は始まっています。
何かを変えたいと思う気持ちは、不安や焦りと表裏一体です。
でも、それは経営者としての“直感”であり、次のフェーズへの入口でもあります。
変化は、小さな問いから生まれます。
「うちは何を強みにすべきか?」
「この先の10年を、どこで戦うか?」
「誰に選ばれる会社になりたいか?」
そして、その問いに向き合う時間こそが、会社の未来をつくる投資になります。
「今はまだ答えが出ない」と感じていても、大丈夫です。
多くの企業が、はじめは同じところからスタートしています。
最初の一歩は、“会社の構造を疑ってみること”。
その一歩から、すべては始まります。
現在、どの業界も厳しい状況にあると思いますが、そんなときこそ、
中小企業はカテゴリーキラーのある経営を推進すべきです。
まずは、一歩踏み出して、真剣に考えることから始めましょう。
正しい方向に進化していくことで、あなたの会社も、今まで以上に大きな利益を生み出すことができるはずです。
追伸
当社では、経営者向けに、隔月で開催している「カテゴリーキラーの作り方セミナー」において、具体的な事例をもとに、どのように自社の売上を力強く生み出していくかについて、ポイントやステップを詳しく解説しています。
「売上が伸びない」「新規顧客が獲得できない」「利益が減ってきている」「受注件数が伸びない」「仕事がなくなっていきている」などの課題に直面している経営者において、「何から手を付けたらよいかわからない」「具体的なやり方を知りたい」という方には、おすすめです。
製造業の方の事例もいくつか詳しく解説する予定です。
もし、まだご参加されていない方は、一度、受講されることをおすすめ致します。
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株式会社ミスターマーケティング
代表コンサルタント
村松 勝